たまご焼き
2010年7月~2013年8月
流れ星
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「やっぱりかなわない。」
これが私の親友りえちゃんに対する思いである。
頭が良くて可愛くて、だけど三枚目のふりをする彼女とは16年の付き合いだ。 大学を卒業し産婦人科に入局した時に右も左もわからない私を助けてくれた命の恩人である。
前にもエッセイで書いたが、私は医者になって1年目の冬に原因不明の腰痛で突然倒れ、3カ月間ずっと寝たきりだった。高田馬場のアパートで弟が大学に行く前につけていってくれるJ-WAVEのラジオと外から聞こえる女性のパンプスのカツカツという音を聞きながら、次々に新しいことを学んでいく同期に遅れてしまうのではないかという焦りと悔しさから、今まで感じたこともないくらいの絶望感を味わった時だった。
苦しい友人のお見舞いに行くこと程めんどうでつらいことはない。
でもりえちゃんはどんなに疲れていても忙しくても、週に何回もアパートに来てくれ、その度にアホ話をしたり、はまっている食べ物を大量に買ってきてくれた。
あの時からそうだった。
「余計なことは言わない。今日一日が幸せならなんとかなる。」って。
そんなりえちゃんはもうすぐ5人目の子どもを出産する。
今日彼女はJスタジオプログラムのソフトマタニティビクスに来てくれた。
ソフマタはマタニティビクスよりもスローなレッスンであり、坂井先生が前半戦でリンパセラピーとストレッチを中心に魅力的なレッスンを進め、後半戦はお産の体位の練習、呼吸法、破水の対処法などで私が攻めていく。
妊婦さんの不安を解消し満足お産のサポートをするのが目的だ。
でも本職のりえちゃんを前にして色々と説明するのは正直こっぱずかしい。
レッスンが終わった後いつもスタジオに併設している和室で妊婦さんとティータイムをするのだが、これがとっても癒される時間。日々妊婦さんが思っている悩みをみんなで考え解消するこの時間は、妊婦さんにとっても私にとっても宝物である。
「ではお茶をしましょう。」とレッスン後に私が皆さんに声をかけると、のっしのっしとゾウさんみたいに歩いてきたりえちゃんは、和室のテーブルの上で突然巨大なおなかをペロンと出し、半ケツでとこちゃんベルト(骨盤を守るベルトの名前です)をしめなおした。
「これがとこちゃんベルト?」と聞くと、「そうだよ。」と青いベルトを見せてくれた。
「6000円くらいするんですけど、産後にもいいですよ。ネットでも売ってます~。」なんてソフマタの妊婦さん達に説明していた。気さくな彼女は、たちまちみんなと仲良くなっていた。
すごいなあ。
今日のソフマタのテーマは破水の対処法。色々な不安や質問を受けながら、ひとつひとつの質問に丁寧に答えている印南主任はやっぱりプロだ。印南主任のアドバイスに初産婦さん達はみんなうんうんとうなずいている。
りえちゃんなんて経産婦なのにかぶりつきだ。
「お産の痛みってどんな感じですか?」という初産婦のすっちゃんの質問に、印南主任は「痛いんだけど、幸せ?」
りえちゃんは「岩みたいな子宮になる。かっつかつ~って感じ。」と。
私は「うんち」と答えた。
そして予定日神話の話になり、「予定日が近くなると、みんなまだ?まだ?って聞いてくるから嫌ですよね~。」と初産婦のくーちゃんが言うと、「そうそう、そういう風に言われるのが嫌だから、私は予定日も妊娠したことも誰にも基本言わないんですぅ。」とりえちゃん。
「え~~~~!!!」みんなが一斉に驚いてしまった。
さらには「だってこういう『ただデブ』って結構街にいるじゃない?」だって。(いないよね)
私はおかしくて紅茶を吹き出してしまったが、確かに私はりえちゃんの妊娠をつい最近まで知らなかったのだ。
産婦人科医でありながら、今日りえちゃんはこう言った。
「そもそも赤ちゃんというのは宇宙と通信しているんだって。私たちが生まれて欲しいと色々やったって、しょせん赤ちゃんが出てきたいと思わない限り陣痛はおこらないのさ。」と。
半ケツでとこちゃんベルトを必死に巻いたり、お祭りでケインコスギのおっかけをしたり、大盛りのご飯をもりもりと食べるりえちゃんが私は大好きだ。
「宇宙と通信しているのかあ。」
なんだか不思議と納得してしまった。
育児と仕事で大変な毎日でも、自分の趣味ややりたいことを大切にするりえちゃん。
そしてなにげない物にも感動し優しい気持ちを持っている。決して後悔しないし、力まない。
「予定日いつと聞かれても言わないし、今日一日が無事終わればそれでよし!と思ってま~す。」
と言っていた彼女は、16年前と同じでキラキラ輝いていた。
夜8時頃に仕事が終わり家に帰ろうとすると、たくさんの星が輝いていた。
そしてさっと流れる流れ星を見つけることができたのだ!
「みんなが安産ですように!!」必死に声を出したら涙まで出た。
人生悔いなしという言葉がぴったりのりえちゃん。
今までの彼女に対する全ての感謝の気持ちを込めて、これからも彼女とともにがんばっていこうと思う。
そして彼女のように、今日しか描けない絵を自分にしか出せない色で描き続けていきたいと思う。
2010年08月11日
新しいホームページになりました
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松島さんに初めてお会いしたのは5年前。
「i-wishママになりたい」という不妊治療情報誌の取材の時であった。
年齢は私よりも上でいらっしゃると思うが、実際にお話をさせて頂く前から、なんとなくこのかたが好きと思った。
当時私は現在よりも余裕な時間があり、様々な取材を受けたり、原稿を書いたりしていた。
またエアロビクス講師・講義の依頼も多く、医療従事者以外のかたとご一緒することが多かった。
自意識過剰もいいところであるが、あの頃の私は「自分がどのように振る舞えば相手は満足してくれるだろうか?」そんなことを思いながら取材を受けることが多かったが、松島さんの場合は全くそういう気遣いをする必要がないくらい、自然な私を引き出して下さった。
彼女のマジックのおかげで取材の後はいつも気持ちがいい。
「まだ帰らないで、もっとおしゃべりしていたい。」こう思うのである。
これは主人である院長も同感であり、松島さんは相手を心地よくさせる素敵な力を持っている女性なのだ。
彼女の不妊症に関する豊かな知識と愛情は誰にも負けないし、「いやいや私たちは一般人ですから、一般人の視線で必要と思われる情報を提供しているだけです。」とおっしゃる言い方は本人の謙遜である。
不妊症への興味と情報提供というよりも、自分が今味わっている「子を持つ幸せ」を一人でも多くのかたにプレゼントしたいと思う、その祈りの強さからあの雑誌はできているのだ。
だからこそ今の不妊治療への疑問、やったできた万歳!でいいのか?
その子が流産でも早産でもなく五体満足に生まれ、さらにはその子供たちが心豊かに育っていくための地域全体の支援が必要ではないのか?などには、私もおおいに共感した。
そんな松島さんが、今回このホームページのリニューアルを手掛けて下さった。
私の大好きなピンク色やハートをどうして知って下さったのだろう。
ホームページという箱を作って下さった彼女のためにもこのホームページを無駄にしてはいけないと思った。
そして、
「純子先生、何でもいいから少しずつつぶやいて下さい。そうしてこのホームページは成長していくんです。」
と言われ、また少し文章を書いてみようかと思ったのだ。
松島さんのような「うなるような文章」は書けなくても、日々なにげなく思ったことをつぶやいてみることで、このホームページが大きく育ってくれるなら、そしてそれを読んで下さる方々が少しでもリラックスしてくださるのなら、また書いてみようかな。そう思ったのだ。
きっと、子宮頚がんワクチンや現在のお産事情などといったハードな部分よりは、きっと大好きな人の話やおいしい食べ物・お酒の話、実は腹黒い私の本音などをつぶやくほうが多いような気がする。
しかしそんな日々の私とどうぞお付き合いくださいませ。
今回のつぶやきのスタートにあたり、これからの目標をたてました。
毎日をていねいに生きようと思います。
2010年07月27日